2026.04.24Business

他業界のマーケティングは変わった。士業だけ、紹介のままでいいのか
AI時代に士業が取り込むべき3つの運用設計
デジタル庁推進委員・総務省アドバイザーが、士業のために書いた移行マップ

本記事は2026年4月時点の情報をもとに執筆しています。

1. 依頼人の側はすでに、AIで動き始めています

「依頼人の約4人に1人が、もう生成AIを日常的に使っている」——この事実が、士業のマーケティングの前提を静かに変えています。

総務省『令和7年版 情報通信白書』によれば、日本の生成AI個人利用率は2023年度の9.1%から2024年度の26.7%へ、約3倍に伸びました。紹介された先生を調べるとき、税務や法律の相談内容を整理するとき——依頼人がAIに問いかけることが、もう特別な行動ではなくなっています。

一方で、士業の側のマーケティングは、この10年で大きく変わったとは言えません。紹介と口コミという伝統的なモデルが、十分に機能してきた業界だからです。

本稿は、主に弁護士・税理士の先生方に読んでいただくことを想定しています(社労士・司法書士・行政書士の先生方にもそのまま応用できる内容です)。YouTuberになれというお話でもなければ、カメラに向かって動画を撮るのが正解、という話でもありません。他業界で起きたマーケティングの進化を、紹介を守りつつ、Web側の入口を少しずつ増やしていくためにどう活かせるか——その設計図を一緒に考えるのが、本稿の目的です。

2. 士業のマーケティングはなぜ "変わらなかった" のか

士業のマーケティングが10年変わらなかったのは、怠慢ではなく、紹介モデルが強力に機能しすぎていたからだと見ています。

独占業務、顧問契約、既存顧客からの紹介の連鎖。この構造は、広告前提のBtoC業界や、営業開拓前提のBtoB業界とは根本から異なります。変える必要がなかった、というのが素直な事実でしょう。

制度上、広告規制はすでに解かれています。弁護士は2000年、税理士は2001年に自由化されました。司法書士・行政書士・社労士についても、各士業会の広告規程が整備されています。道は20年以上前に開いていたのです。それでも慣習が変わらなかったのは、紹介で十分に回っていたから、に他なりません。

ただ、依頼人の側は明確に変わりました。先ほどの26.7%がその象徴です。加えて、紹介を受けた後でも「必ずWeb検索される」時代が、すでに定着しています。

日本では「紹介 vs Web」の公開統計がないため、「紹介が減った」とは断定しません。でも、紹介後にWebで必ず調べられる——ここは、もう揺るぎない前提です。

3. 士業で先に動いた先生方が、すでに証明していること

「士業はマーケに動かない」という前提は、もう実証事例で崩れつつあります。

日本でも、動いた先生方は確実に成果を出しています。

岡野タケシ弁護士(アトム法律事務所)は、YouTubeチャンネル「岡野タケシ弁護士【アトム法律グループ】」の登録者が176万人に達しています(2026年4月時点)。法律相談というシリアスなテーマを、分かりやすい短尺動画で届け続けた結果です。

税理士の菅原由一氏(SMG菅原経営)は、YouTubeチャンネル「脱・税理士スガワラくん」の登録者が161万人に達しています(2026年4月時点)。税務という、従来は「相談しにくい」と敬遠されがちな領域を、中小企業経営者の言葉で語り直しました。

リバティ・ベル法律事務所(籾山善臣弁護士)は、YouTubeではなくオウンドメディアです。弁護士1名・広告費ゼロで月180〜200件の問い合わせ(LINE・公式サイト経由)、面談後の受任率約20%を実現しています(バズ部 2023年7月インタビュー。「200件」は受任数ではなく問い合わせ数)。

この3者に共通するのは「特殊な才能」ではなく、次の3点です。

  • 紹介を否定せず、並行してWebの入口を作った
  • 専門性をコンテンツで可視化した(他業界のコンテンツマーケティングと同じ型)
  • 一人・少人数でも回る仕組みにした

そしてAI時代の本質は、今まで「時間とスタミナのある特殊な人の技」だったコンテンツ量産が、生成AIで再現可能になったことです。

4. AI時代に、士業が取り込めそうな「3つの運用設計」

最近、現場で伺った話から

抽象論の前に、最近伺った具体的な話をひとつ。

ご縁のある弁護士の先生から、「士業のAI活用は、正直まだあまり進んでいない」という実感を聞きました。そこで私から、先生の事務所の業務を踏まえたAI活用の具体的なHow toをいくつかお伝えしたところ、先生の反応は一変しました。「こんなことができるのか、今すぐ始めたい」——その後、実際に成果が明確に上がっているとお聞きしています。

ここから見えたのは、士業の先生方はAIに後ろ向きなのではなく、"自分の業務にどう効くか"が目の前で見えた瞬間、一気に動かれるということです。必要なのは、一般論ではなく、具体的な設計図。その設計図を、以下の3つの運用設計に整理しました。どれも他業界ですでに実証済みの型です。

4-1. データで顧客獲得を "見える化" する

士業でも「応答速度」「歩留まり」を数字で追えば、問い合わせから受任までの成果は大きく変わります。

他業界、特にBtoB SaaS(企業向けクラウドサービス)の世界では、この10年で「顧客獲得=感覚と縁」から「顧客獲得=測定と改善」へと完全に移りました。問い合わせの応答速度や受任までの歩留まりを、数字で追って改善するのが常識です。

士業業界でも、データはすでに出ています。米国の法律事務所向けSaaS Clio が行った調査(Clio 2024 Legal Trends Report)では、調査員が潜在的な依頼人を装って500の米国法律事務所に新規問い合わせメールを送ったところ、返信があったのは33%、電話をかけた際に応答があったのは40%でした。半分以上の事務所が、新規の問い合わせに応答できていないという実態です。

一方で、問い合わせ受付の仕組みを整えた事務所は、新規の潜在依頼人が51%増、売上が52%増という成果が出ています。同レポートでは、成果を出している事務所ほどマーケティング投資が41%多く、収益性も21%高い、との相関も示されました。

明日から取り組める具体的アクションは3つです。

  • 新規問い合わせには24時間以内に一次返信するルールを事務所で決める
  • 顧問先の業種トップ3向けのFAQ記事を整える(AIで叩き台を作れば時間短縮できます)
  • 相談内容から緊急度・案件規模を3〜5段階で判定する簡単な仕組みを導入する

これだけで、問い合わせから受任までの歩留まりは大きく変わります。

4-2. 専門性を「人」として可視化する

他業界で起きたもう一つの大きな変化は、「商品・サービスではなく、人が選ばれる時代」への移行です。クリエイターエコノミー(個人の発信者が経済の中心になる流れ)、BtoBでの個人の発信力の重み、採用市場での"個の信頼"——すべて同じ流れの中にあります。

興味深いのは、士業の先生方は第三者からの評価と、信頼できるネットワークをすでに持っている方が大半、という点です。足りないのは「自分の知見のコンテンツ化」だけ、とも言えます。

問題は「時間」でした。ここにAIが役割を果たします。AIが代替できるのは、リサーチ、構成の叩き台、原稿ドラフト、SNS投稿文案、動画台本案など、制作プロセスの前半部分です。最終的な専門判断と責任は先生ご自身が担う——この前提を守れば、発信量を数倍に増やすのは十分現実的です。

発信頻度について一つデータを。Metricool社がLinkedIn公式データをもとにまとめた調査では、週1回以上投稿するLinkedInページは、月1回投稿のページと比較してフォロワー数が5.6倍、フォロワー増加速度が7倍という結果が出ています。"毎日更新"ではなく、"週1ペースを続ける"で、成長速度が跳ね上がるのです。

発信にあたっては、各士業会の業務広告規程や守秘義務との両立が前提になります。ここは先生方ご自身のご専門領域ですので深くは踏み込みませんが、業務情報の抽象化・匿名化を徹底した運用設計をベースにする、という点だけ申し添えます。

4-3. 業務効率化で浮いた時間を、マーケに戻す

AI活用で浮いた時間を「マーケ・戦略業務」に再投資できる事務所が、次の5年で伸びます。

ここが、3つの中で最も大事かもしれません。AI導入で時間が浮いた先生方は、すでに多いはずです。問題はその時間を何に使うかです。

米国Intuit社の『2025 Accountant Technology Report』(米国会計士700人対象)では、会計士の79%が今後アドバイザリー業務(経営相談・戦略助言の領域)の成長を見込み、平均38%の増加を予測しています。定型業務の自動化で浮いた時間を、戦略相談という高付加価値業務に再投資する動きが、もう定着しているのです。

法律業務についても、Goldman Sachs 2023年レポートは、生成AIが法律業務を含む多くのホワイトカラー業務に大きな自動化の影響を及ぼす可能性を試算しています。Thomson Reuters『Future of Professionals 2025』(n=2,275)では、AI戦略を持つ事務所は持たない事務所の2倍の収益成長確率が示されています。ただし、「AI戦略あり」と答えた事務所は全体の22%のみ。今動く先生方が、次の5年の勝者になる構造が、すでにデータで裏付けられています。

事務所で明日から取り組める運用はシンプルです。

  • AI活用で浮いた時間を、「休暇」ではなく「マーケ・戦略業務」に再投資する仕組みを作る
  • 毎週の"マーケタイム"をカレンダーにブロックする(例:毎週金曜の午後2時間)
  • 施策ごとに数字(応答率・問い合わせ数・読了率)を可視化して、月次で振り返る

これだけで、AI活用が「業務効率化の道具」から「事業成長のエンジン」に変わります。

5. "CMO不在" の士業事務所が、外部パートナーと回すという選択肢

ここまで読んで「理屈は分かったが、これを自分の事務所で誰がやるんだ?」と思われた先生は、正しい感覚をお持ちです。本業が忙しい中で、所長お一人で3つの運用設計を回すのは、正直現実的ではありません。だからこそ、「外部にCMO機能を持つ」という経営判断が、次の5年で効いてきます。

中堅以下の事務所の多くは、CMO(最高マーケティング責任者)を雇う規模ではありません。でも、3つの運用設計を回すには、ブランドマーケの知見、データ分析、コンテンツ戦略、AI活用、そして士業特有の感覚——これらが同時に必要です。一人で全部を学ぶのは、正直しんどい話です。

Marumakeは、士業事務所の"外付けマーケパートナー"としての役割を目指しています。

私(青木一剛)は、日本コカ・コーラのブランドマネージャー時代にスプライトのV字回復を担当し、外資系IT企業ではアカウントストラテジストとして300社超のデジタル戦略支援に携わってきました。現在はデジタル庁デジタル推進委員、総務省地域情報化アドバイザー、長崎県観光審議委員・デジタルコーディネーター、京都市政策推進パートナーといった公職も務めています。BtoCブランドマーケティングの現場感覚と、官公庁アドバイザリーの制度感覚——両方の視点から、士業の先生方と3つの運用設計を一緒に回すのが、Marumakeの立ち位置です。

士業の世界には、他士業の独占業務への介入を制限する各種ルールが存在します。それは私たちも承知した上で、法律・労務・登記等の実務判断は、すべて先生方のご専門領域と位置付けています。Marumakeの業務範囲はマーケティング設計・コンテンツ支援・運用の並走に限定し、士業独占業務への介入は一切行いません。成果報酬型(受任件数連動)での契約も行わない方針です。

進め方のイメージ:山田税理士(仮名・51歳・開業15年・職員8名)の90日+α

  • Day 1:記事を読んで、問い合わせ応答ルールを24時間以内と決めた
  • Day 30:顧問先業種別(不動産・医療法人・飲食)のFAQ記事を、月2本AIにドラフトさせて自己編集する運用を開始
  • Day 60:既存顧問先から「この記事、分かりやすいね」と声をかけられ、紹介の質が変わり始めた
  • Day 90:AIで浮いた週4時間を毎週金曜のマーケタイムとして固定。既存顧問先からの相談が、FAQ記事を読んだ上での「具体的な質問」に変わり、面談時間が短縮
  • Day 180:蓄積したFAQ記事の検索流入が立ち上がり、記事経由で初の直接新規問い合わせを獲得(※新規の直接流入は地域・業種により半年〜1年の立ち上がり期間を要するのが通例です)

数字を追いつつ、まずは習慣化の順番を固めることが、最も再現性のある設計です。

6. 今日から始められる、「最初の一歩」

3つの運用設計を一度に始める必要はありません。完璧より、小さく始めて3ヶ月続ける——それが最初の勝ち筋です。

優先順位を付けて、まず3ステップから。

  • 今日できること(5分):新規問い合わせには「24時間以内に一次返信」のルールを事務所内に共有する
  • 今週できること(1時間):顧問先の業種トップ3を書き出し、それぞれにFAQ記事1本ずつのテーマを決める
  • 来月までに決めること:毎週の"マーケタイム"(最低2時間)をカレンダーに固定予約する

完璧を求めて動けない先生より、小さく始めて続ける先生が、1年後には大きな差を生みます。

7. Let's Talk:「次の5年」の最初の一歩は、一度のご相談から

ここまでお読みいただきありがとうございます。

Marumakeは、AI×戦略設計で企業のマーケティングを支援する会社です。BtoCブランドマーケティングの実務感覚と、官公庁アドバイザリーの制度感覚の両視点から、士業の先生方と並走します。

3つの運用設計、どこから着手するか——それを一度、30分の初回相談で整理しませんか。

営業目的ではなく、先生方の事務所に合った優先順位を一緒に描く時間です。「集客に困っていないけれど、次の5年の選択肢として聞いておきたい」という温度感の先生も歓迎です。

よくあるご質問

Q1. 紹介だけで十分に回っている事務所も、マーケを始める必要はありますか?

現時点で緊急性はないと思います。ただ、依頼人の生成AI利用率が1年で9.1%→26.7%に伸びた事実は、「紹介後も必ずWeb検索される」傾向を加速させます。本稿の主旨は「紹介をやめてWebへ」ではなく、「紹介を守りつつ、Web側の入口を増やす」です。次の5年の選択肢として、今から設計しておくのをおすすめします。

Q2. AI活用で依頼人情報の守秘義務に抵触しないか心配です。

守秘義務との両立は、AI活用の大前提です。依頼人情報の抽象化・匿名化の徹底、業務向けの閉じた環境のAI選定、最終判断と責任は先生ご自身が担う運用——この3つが基本になります。具体的な取り扱い指針は、各士業会が公表する最新のガイドラインをご確認いただくのが確実です。

Q3. パーソナルブランディングは、弁護士や税理士の品位と両立しますか?

両立します。ここでいうのは「目立つこと」ではなく、「自分の専門性を、依頼人の言葉で可視化する」ことです。各士業会の業務広告規程で禁止されている表現を避ければ、品位を損なわずに発信できます。動画発信は一つの形ですが、ブログ記事やLinkedInの専門解説だけでも十分な効果があります。

Q4. 一人事務所や少人数事務所でも、3つの運用設計は実行可能ですか?

可能です。リバティ・ベル法律事務所は弁護士1名・広告費ゼロで月180〜200件の問い合わせを実現しています。むしろ組織が小さい方が、意思決定が速く、有利な面もあります。

Q5. 何から始めるのが、最も失敗しない順番ですか?

事務所の状況にもよりますが、「4-3. 業務効率化で浮いた時間をマーケに戻す」から始めるのが、最も失敗が少ない順序です。時間を先に確保しないと、マーケ施策は着手しても続きません。次に「4-1. データで顧客獲得を見える化」、最後に「4-2. 専門性を人として可視化」という流れが続けやすいと感じます。

ただし、「今すぐ動き出したい」「自分で順序を考える時間もない」という先生方には、士業のマーケに知見のある外部パートナーにご相談いただくのが最短です。順序設計から最初の一歩の運用まで、伴走してもらうほうが確実です。

あわせて読みたい

本稿で触れた「専門性を人として可視化する」「短尺動画で届け続ける」は、それぞれ他業界・他領域の記事で詳しく解説しています。士業にそのまま応用できる考え方としてあわせてご覧ください。

免責事項

  1. 本記事は2026年4月時点の情報に基づいて作成されています。
  2. 本記事は一般情報の提供を目的としたものであり、特定の活動・サービスを推奨・保証するものではありません。
  3. 実務における法務・広告・守秘義務等の判断は、各士業法・各士業会の規程に従い、先生方ご自身の責任でご確認・ご実施ください。
  4. 記載した事例・数値の効果を、読者の事務所で同様に再現することを保証するものではありません。
  5. Marumakeはマーケティング設計・コンテンツ支援・運用並走を業務範囲とし、士業独占業務への介入は一切行いません。

出典一覧

#出典・数値発表元
1生成AI個人利用率 2023年度9.1%→2024年度26.7%総務省『令和7年版 情報通信白書』2025
2YouTube登録者176万人(2026年4月時点)岡野タケシ弁護士【アトム法律グループ】YouTubeチャンネル2026.04
3YouTube「脱・税理士スガワラくん」登録者161万人(2026年4月時点)脱・税理士スガワラくん YouTubeチャンネル2026.04
4弁護士1名・広告費ゼロで月180〜200件の問い合わせ、受任率約20%バズ部 リバティ・ベル法律事務所インタビュー2023.07
5500法律事務所調査:メール返信率33%・電話応答率40%、受付整備で新規51%増・売上52%増Clio 2024 Legal Trends Report2024
6LinkedIn週1回以上投稿はフォロワー数5.6倍・増加速度7倍(LinkedIn公式データ引用)Metricool LinkedIn Statistics
7米国会計士79%がアドバイザリー業務の成長見込み、平均38%増予測(n=700)Intuit『2025 Accountant Technology Report』2025
8生成AIが法律業務を含む多くのホワイトカラー業務に大きな自動化の影響を及ぼす試算Goldman Sachs Research2023
9AI戦略あり事務所は2倍の収益成長確率、全体22%のみ戦略あり(n=2,275)Thomson Reuters『Future of Professionals 2025』2025

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